バレエ『アレコ』上映会

昨年11月に青森県立美術館のアレコホールで行われたバレエ『アレコ』の上演動画の上映会が所沢で行われると聞いて行ってきました。

バレエ『アレコ』

バレエ『アレコ』はプーシキンの短編小説『ジプシー』を原作とする物語です。文明社会に嫌気がさしたロシア貴族の青年アレコがロマ(ジプシー)の一団に加わり族長の娘ゼムフィーラと恋に落ちるが、自由奔放なゼムフィーラは他のロマの男に心変わり。絶望したアレコはゼムフィーラの新しい恋人とゼムフィーラを刺し殺してしまう…という物語です。ロシアの作曲家ラフマニノフがこの物語に基づいて歌劇『アレコ』を作曲していますが今回のバレエはそれとは別物で、音楽はチャイコフスキーのピアノ三重奏曲が使用されています。

そこでなぜ青森県立美術館が出てくるかというと、バレエ『アレコ』の初演時の背景画がロシアの有名な画家であるマルク・シャガールの手によるものであり、全4幕に対応した4連作の絵画(いずれも幅約15m×高さ約9mの大型)のうち3作品が青森県立美術館の所蔵作品なのです。

※現在、もう1枚をフィラデルフィア美術館からレンタルして、青森県立美術館内『アレコホール』に4枚をセットにして展示中

バレエは1942年に初演され大好評だったとのことですが、1960年代以来上演された記録がないそうで、昨年11月に青森県立美術館アレコホールで初演時の背景画であるシャガールの絵の飾られた空間で上演されたのが50年ぶりに復活となりました。

今回はそのときの映像を県外で初めて上映するのだそうです。

上映会

青森県立美術館の紹介動画、バレエ『アレコ』の解説動画のあと、いよいよ本編上映開始。

本来は4枚の画がそれぞれ第1幕~第4幕に対応しているのですが、青森県立美術館での公演では幕の区切りが明確ではなく、背景もずっと第4幕『サンクトペテルブルグの幻想』でした。まぁオペラやバレエを上演するホールではなく美術館なので、背景画を短時間で入れ替えるような設備はないでしょうから仕方ないですが…。この画は中央に大きく描かれた空へと駆け上がる白馬が印象的ですが、赤黒く染まった大地と黒い空、左下には墓地が描かれるという、禍々しさや不気味さも感じさせます。冒頭から幕切れのアレコの狂気を暗示しているのでしょうか。

演じられる内容も、初演時とは異なる点がありました。

まず第一幕冒頭、原作にはない場面として、アレコが貴族社会に絶望するまでが描かれます。途中、ロマたちも混ざるのですが、これは実際に貴族とロマが一緒にいたというのではなく、『自由』にあこがれるアレコの心情を表したものでしょう。

もう一つ大きな違いは、第四幕です。初演時はアレコが見る悪夢として怪物などが登場していたのだそうですが、青森県立美術館版では第一幕の貴族達が登場、アレコをあざ笑うような仕草を見せます。これも本当に貴族がロマのキャンプまでやってきたのではなく、ゼムフィーラの愛を失ったアレコの見た幻でしょう。もしかしたら自由へのあこがれの裏返しとして貴族の中で何らかのコンプレックスを持っていたか、あるいはロマの一族の中で孤立して貴族社会を捨てたことを後悔し始めていたのか…そんなアレコの心情を表しているのかもしれません。

音楽について。バレエ『アレコ』では、初演時からチャイコフスキーのピアノ三重奏曲が使用されていたのですが、本上演ではチャイコフスキーのピアノ三重奏曲の管弦楽アレンジが使用されていました。もとはシンプルな響きの室内楽曲ですが、アレンジによって『白鳥の湖』や『眠れる森の美女』にも負けない重厚な響きを持つ曲に仕上がっていました。また、たとえば第2楽章の変奏がちょうど『くるみ割り人形』などで『チョコレートの踊り』『コーヒーの踊り』『お茶の踊り』などが次々と披露される場面のような効果を出したり、最後のコーダで第一楽章のテーマが再現される部分がアレコの殺人の場面と重なったりと、よくシーンと対応するように上手く演出され、まるで最初からドラマのために作曲されたような効果となっていました。

トークショー

上映の後は、出演バレエダンサーの勅使河原綾乃さん(ゼムフィーラ役)、山田佳歩さん(貴族女性・ロマ役)、大島沙彩さん(ロマ役)が登壇してのトークショーでした。

作品への思い、衣装のお気に入りポイント、そして裏話などいろいろと面白いお話を伺うことが出来ました。一部は青森県立美術館公式サイト内でも公開されています。

トークショーの舞台写真にちらっと写っている舞台衣装ですが、実は開演前はロビーに展示されていました。左から貴族女性、ゼムフィーラ、ロマの衣装です。

というわけで

上映・トークショー合わせて2時間ちょっとのイベントでしたが、本当にあっという間に終わってしまいました。僕は数年前に青森県立美術館でシャガールの絵を見てバレエの存在を知って以来、どのような舞台だったのか是非観たいと思っていたのですが、今回念願が叶いました。

最後に。

バレエ『アレコ』の解説本(一応カテゴリは絵本なのですが)、

『色よ、おどれ』の再販をお願いします!

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