函館市北方民族資料館

旧イギリス領事館を出て基坂を下っていくと、右前方に函館市北方民族資料館があります。

どっしりとした重厚な建物は、もとは日本銀行函館支店だったもので、大正15年(1926年)に建築されました。もうすぐ築100年!…元銀行の博物館というと、横浜の神奈川県立歴史博物館(もとは横浜正金銀行本店)や盛岡のもりおか啄木・賢治青春館(もとは第九十銀行)もそうですね。

ゴールデンカムイとコラボしているようです。まぁ、北海道を舞台にした人気漫画&アニメですからね。

1階

展示ホール

受付を通過してすぐ、展示ホール。中央にはコロボックルの人形があり、周囲には幕末から明治初期にかけて活躍した画家・平沢犀山が1~12月それぞれのアイヌの人々の生活の様子を描いた『アイヌ風俗12ヶ月屏風』が並んでいます。

こちらは展示ホールの向かいの研修室に展示されていたチプ。漁・運搬などに用いられた丸木舟です。丸木舟は木の幹を半分に切ってから中をくりぬいて作るのですが、北側だった方を船底にするのだそうです。日の当たる南側に較べて北側は成長が遅く年輪が詰まって重いため、そちらを下にしたほうが船が安定するのだそうです。へー。

展示室1

展示室1は、アイヌの民族衣装についての展示でした。

いかにもアイヌという感じのデザイン(まぁ僕のアイヌに関する情報源は手塚治虫のマンガだったりするんですが…)。この独特の色彩や文様には、病気や災厄から身を守るためのまじないの意味がある、という説もあるそうです。

なぜか1着だけ陣羽織が?と思ったら、やはりアイヌ民族が和人との交易で取り入れたものだそうです。通常、和人から仕入れた着物は仕立て直したりすることが多かったようなのですが、この陣羽織はそのままの形で着用されていました(だから形が現在も残っています)。

この陣羽織は儀式などの晴れ着として着用されていたらしく、その様子は展示ホールの十二屏風にも描かれています…って、これかな。

オマケ

1階トイレのドアノブなんですが、鍵を掛けると中のプレートが回転して『使用中』という文字が現れるようになっています。いまとなってはほとんど見ることが出来ないこの形式のドアノブは、昭和29年の増改築のときに取り付けられた『当時の高級品』なんだそうです。

ほかにも、このトイレの男性用小便器は『貯水タンクに一定量の水が溜まると流れる』というサイフォンの原理を応用したもの。頭上に大きなタンクがあって、常にちょろちょろと水がタンクに流れ込む音がきこえているアレです。電子制御をまったく用いていないこの型式のトイレは、昭和時代まではどこにでもありました。が、人感センサで使用毎に個別に水を流す型式が普及した現在はほとんど見かけませんね。

北方民俗資料館の建物は元・日本銀行函館支店で、大正15年に建築されたもの。建物のあちこちには、このような古い構造や備品が残っていて、それを探すのも面白いですね。

※『使用中』になっていますが、他の人が使っている状態を写したのではありません

2階

2階には小さな展示室が並んでいます。展示ホールが2階まで吹き抜けとなっているため、展示室の合計床面積が1階よりかなり狭いようです。

展示室2

こちらは『北の神々』と題して、アイヌ民族の信仰や儀式に関するものを展示しています。

飾り金具付き帯。アイヌの言葉でカーニクフといい、シャーマンの儀礼に使用されたもののようです。帯自体は革製で、そこに多数の金属製の飾りが取り付けられています。非常に複雑で精緻な細工物です。樺太アイヌの一品。

展示室3

こちらは『暮らしの中の手仕事』と題して、調度用具などが展示されています。

こちらには、矢筒・弓・矢・小刀・槍・ソリなど、狩猟の道具が並んでいます。弓矢は一般的な和弓の道具にくらべてかなり小型に見えます。携帯性や速射性を重視していたのでしょうか。

これは一体なんだろう?と思ってしまいますが、なんと装飾されたセイウチの牙です。描かれているのはセイウチ猟のようです。右端には氷の上にいるセイウチ、中央にはカヌーに乗った人々やロープを投げている人々、左端には捕らえられたセイウチが解体されている様子が描かれています。絵本のように物語性があるようです。裏面にはトナカイ?に槍を突き立てている様子も描かれています。

展示室4

こちらは北方民族資料館で収蔵・展示されている函館博物館旧蔵資料馬場コレクション児玉コレクションについて紹介・解説されています。

函館博物館旧蔵資料は、開拓使顧問ケプロン(Horace Capron)の進言により開拓使函館支庁仮博物館が開館して以来、明治12年(1879年)から明治19年(1886年)にかけて収蔵されたものです。開拓使長官黒田清隆らによって収集されたものや、函館にゆかりのある杉浦嘉七らの篤志家に寄贈されたものがあります。

馬場コレクションは、函館出身で北方民族学の世界的権威・馬場脩氏が昭和10年(1935年)頃に千島・樺太・北海道を調査して収集した資料で、昭和34年(1959年)に国の重要有形民俗文化財に指定されています。

児玉コレクションは、元北海道大学名誉教授の児玉作左衛門氏が第二次世界大戦前後に私財を投じて調査・収集したアイヌ民俗資料です。

展示室5

展示室5は、独立した部屋というより半端に余った建物の角の空間にも展示物がある、という感じです。写真は『あそびの世界』と題した、子どもたちが遊ぶ様子を描いた絵画の展示です。

展示室6

こちらは『アイヌ民族学の先駆者達』と題して、蝦夷地以北の探検・調査の歴史について解説されています。

小玉貞良こだま ていりょうによるアイヌ絵巻。小玉貞良は江戸中期の松前藩で活躍した絵師で、その作品は現存するもっとも古い時代のアイヌ絵と言われているそうです。展示されているのは宝暦年間(1751~1764年)に描かれたもののようです。

展示室7

ここでは『アイヌ絵の世界』と題して、アイヌの人々の風俗・風習・生活を描いた絵画についての解説・展示があります。一口に『アイヌ絵』といっても型式は様々なようで、右手に展示されている物は水墨画のかけじく風ですね。

データ

というわけで展示資料数は非常に多いです。アイヌの衣服や道具の装飾には独特の美しさがあり、見応えのある博物館でした。

Webサイト函館氏文化・スポーツ振興財団サイト内 函館市北方民族資料館ページ
地図GoogleMap
アクセス市電『末広町』より徒歩1分
開館時間
休館日
入場料大人240円、学生・生徒・児童120円
※旧函館区公会堂、旧イギリス領事館、文学館との共通券有り
※4館840円、3館720円、2館500円(学生以下は半額)
備考館内は飲食不可(休憩室があるがコロナの影響で閉鎖中)

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