【山本五十六】見てきた

この冬公開の【聯合艦隊司令長官 山本五十六】を観てきました。


ストーリーについては、当然ながら他の山本五十六作品とまったく同じです。
海軍次官時代(三国軍事同盟で揉めていた頃)~戦死までの数年間を淡々と描いています。
ポスターには炎上する戦艦(長門級?)と『総員出撃』というコピーが描かれていますが、そこから想像するような『派手な戦闘シーンがウリ』の映画ではありません。というか、ポスターに描かれている戦艦炎上の場面は本編にありません。特撮の出来はよいのですが。
ハリウッド式戦争映画のようなスペクタクルを期待すると裏切られます。
上映時間も長いですし、途中で飽きてしまうでしょう。
実際、もともと少なかった観客が終了までにさらに減っていました。
また、予備知識がない人は話の流れについていけないかもしれません。
というわけで、僕はいろいろ感じるものがあったのですが、万人にはお勧めしません。
山本五十六になんらかの思い入れがある人だけどうぞ。
一応、ネタバレ改行するかな…。
『あのとき、なぜ戦争に至ったのか』
を、政治や世論の動きを通じて描くのが目的のようです。
描き方が少々あざとく感じるところもありますが。
戦争に至った原因について。
一般的には『あれは軍の暴走が原因』とする考え方が主流なんだと思いますが、
この作品ではハッキリ『マスコミが煽り、一般国民が戦争を求めた』と描かれています。
戦争が始まってからのエピソードについて、
軍令部総長・永野修身と機動部隊司令官・南雲忠一の二人は、無能というよりはむしろ積極的に山本の足を引っ張る『悪役』になっています。南雲は直属上司である山本ではなく永野の指示によって動き、結果表面的な戦果は挙げたものの作戦の目的はまったく達成しないまま平気で帰投する有様。
さらに南雲の参謀は、作戦会議で『米空母恐れるにたりず』という発言を山本に根拠のないものとたしなめられ、それを根に持ったのか現場で再び『米空母などいない』と主張してミッドウェーの大惨敗の原因を作った…という風に描かれています。
※…東大生/OBにはこういうタイプがけっこう多いんですよね。
短期間に何度も政権が変わり、国民の間に広がる政治不信。
『ドイツが勝てば大丈夫』という程度の見通しで開戦を決定してしまう政府。
真珠湾攻撃前の『最後通牒』を米政府に渡すのを遅らせ、それがどれほどの失態かの自覚がない外務省。
戦況についてウソばかり発表する政府。
…たぶん意識して、2011年の日本の状況と重なるように描いているのでしょう。
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あとは思いついたことをつらつらと。一部くりかえしになりますが…。
この時代についての予備知識がない人に対しては不親切な作品です。
架空戦記モノで山本五十六の名前を知った人にもオススメしません。
特撮(ミニチュアとCG併用だそうです)の出来は日本戦争映画としては過去最高の出来です。
が、派手な戦闘場面はほとんどありません。まぁやはり戦艦が軽く見えてしまうので、砲撃シーンがほとんどなかったのはむしろよかったのかもしれません。
『戦争の悲惨さ』を露骨に描くことは、おそらく意図的に避けられています。直接人の死が描かれたのはラスト近くの山本機撃墜の場面くらいで、あとはほとんど台詞による報告だけです。ラストで終戦直後の東京が登場しますが、無機的な瓦礫の山だけで死体はおろか怪我人も登場しません。
他の『山本五十六』作品に比べ、山本が笑顔を浮かべるシーンが非常に多くあります。
味方の損害の報告を受ける場面でさえ笑顔です。…違和感を憶える人も多いかもしれませんが、僕にはなんとなく共感できました。…普通なら、『それ見たことか、いわんこっちゃない』と怒りをあらわにするか、悔しさをにじませる場面のはずです。それを笑うのは、山本の強さであり弱さであり、長所であり短所であったでしょう。
物を食べるシーンが多く登場します。
水まんじゅう(長岡の名物なんでしょうか?)に砂糖をたっぷりかけて美味そうに食べる。
嬉しそうにお汁粉をお代わりする。
旧友と語り合いつつ、スイカにかぶりつく。
家族でちゃぶ台を囲み、魚をほぐして子どもたちに与える。
敗走してきた南雲とともにお茶漬けをすする。
幕僚たちとともに酒を飲み歌う(実は下戸らしい)
誰と、何を、どんな表情で…。
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というわけで、観る人によって解釈・感想が大きく異なりそうですが、
僕は『哀しさ』や『切なさ』を感じました。『戦争は哀しいものである』という意味ではなく、
なんというか…『いまも何も変わっていない、同じ失敗ばかりだ』…という感じです。
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40年前に製作された【連合艦隊司令長官 山本五十六】(『連』の字が違う)と比べてみると面白いかもしれません。描かれている年代・エピソードはほぼ共通です。台詞も似ています。

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